大阪高等裁判所 平成10年(ネ)941号 判決 1999年1月14日
京都市下京区正面通烏丸東入廿人講町二五番地
控訴人(被告)
株式会社神戸珠数店
右代表者代表取締役
神戸良司
右訴訟代理人弁護士
知原信行
大阪市天王寺区東高津町六番一三号
被控訴人(原告)
有限会社ヤマダ
右代表者取締役
山田雅己
右訴訟代理人弁護士
木内道祥
同
谷池洋
右補佐人弁理士
辻本一義
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
本件の事案の概要は、次に付加する他は、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるからこれを引用する。
(控訴人の当審主張)
本件各登録意匠は意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本の国内において広く知られた形状、模様又はこれらの結合に基づいて容易に創作することができた意匠であって、意匠法三条二項に該当し、同法四八条一項一号により無効とすべきものである。
第三 当裁判所の判断
当裁判所も、本件各登録意匠には控訴人主張の無効事由があるとは認められず、控訴人の当審主張を検討しても、右認定は左右されないものと判断する。その理由は、次に付加する他は、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の当審主張に対する判断)
一 乙一七は、昭和五八年一月発行の「安藤商報」(第四四〇号)と題する宣伝誌であり、同誌の「単念珠」の掲載欄には房の付いた数珠の写真が一〇種類(写真番号<30>ないし<39>)掲載されている。右写真によれば、同数珠のうち八種類(七種は梵天房《<31><33><35>ないし<39>》・一種は紐房《<34>》と称されている)には二個の丸玉様のものがそれぞれ紐に連結されてその紐が上部で結び合わされ、その結び合わせ部の上に装飾部材が設けられていることが認められる。
右写真のうち丸玉部が紐房のもの(<34>)は、紐房二個がそれぞれ紐に連結されており、その紐が装飾部材との中間部でいったん結び合わされてはいるが、紐の結び合わせ部の中心的部分が装飾部材に近接した位置にあって重厚で複雑な結び合わせである点に特徴がある(なお、右紐房末端に構成された丸玉様結びの構成は同証拠上明確でない。)。これに対し、本件登録意匠(一)の小田巻き(以下単に「小田巻き」という。)に連結された紐は小田巻きと装飾部材の中間部で結び合わされているが、そこから装飾部材までの結び合わせは比較的単純なものであって、右紐房のものと比較して美感上明らかに異なっており、右紐房から本件登録意匠(一)が当業者において容易に創作できたとはにわかにいい難い(なお、乙一八によれば、本件意匠出願当時、種々の結び方による丸玉様飾り結びが案出されていたことは窺えるが、右乙一八及び前記乙一七によっては、右小田巻きの独特の巻き方が本件各意匠出願時公知であったか否かは明らかではなく、他にこれが公知であったことを認めうる証拠はない。)。
右写真のうち丸玉部が梵天房のものは、梵天房二個がそれぞれ紐に連結されその紐が装飾部材との中間部で結び合わされている点で、本件登録意匠(一)の類似意匠の構成と外観上似ていると認められるが、本件登録意匠(一)の玉部は前記の小田巻きであって、右写真の梵天房と前記の小田巻きとは玉部の構成の仕方が全く異なるから、たとえ右小田巻きが公知のものであり、他方、数珠の房部に梵天房を設けた例があるからといって、それから直ちに根付けに小田巻きを取り入れる着想が当業者において容易であったとは認めることはできない。
そして、右写真の各房部を本件登録意匠(二)(三)と比較すると、本件登録意匠(二)は三個の小田巻きで構成されている点で既に異なり、本件登録意匠(三)は紐上部において丸玉を複数個通し八の字を描くように結びを組み合わせる構成となっている点で異なるものと認められる。
したがって、右写真によっても、本件各登録意匠がその出願前に広く知られた形状、模様又はこれらの結合に基づいて容易に創作できた意匠とまではいうことができない。
二 乙一九は、昭和五九年五月と同年六月に購入したという数珠の証明書でそれに写真一葉が添付されており、乙二〇は、右写真の対象物の購入日を裏付ける資料として提出された仕入帳簿である。右写真に写された数珠は、上部を装飾部材に挿通した下げ飾りが付され、その下げ飾りの形状は、二個の小田巻き様の丸玉がそれぞれ紐に連結され、その紐が上部で結び合わされ、その結び合わせ部の上に装飾部材が設けられてその部材の孔に紐の上部が挿通されているものであると認められる。したがって、右下げ飾りの形状は本件登録意匠(一)に一部類似しているということができる。
しかし、右数珠の購入日に対応する右帳簿の昭和五九年六月一二日欄には「カルヤ釈(一字判読不能)凡天」を購入したとの記載があるが、右写真に写された下げ飾りの丸玉部の形状は、前記乙一七に「梵天房」と記載された下げ飾りの丸玉部の形状とは明らかに異なり、むしろ、控訴人のいう「小田巻き」や乙一七に「紐房」と記載された丸玉部に類似しているのであって、はたして右写真の物品が右仕入帳簿に記載された物品(「凡天」)と同一であるかは疑問といわざるを得ない。また、乙一九の作成日付は平成九年一一月であり、購入したとされる昭和五九年からはすでに一三年が経過しているのであって、他にその同一性を裏付けるに足る客観的な資料がない以上、右写真に写された数珠が昭和五九年に購入された下げ飾りであると認めるのは困難である。
結局、乙一九を根拠として本件登録意匠(一)が当業者において容易に創作できたものというには十分でない。そして、乙一九の写真の対象物が本件登録意匠(二)(三)の意匠と異なることは前記一と同様である。
三 してみると、他に控訴人の当審主張を裏付けるに足りる証拠がない以上、右主張を採用することはできない。
第四 以上の次第で、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一〇年一一月四日)
(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 川神裕)